「八九間 空で…」

kuhi_01

 

 有志の皆様のご尽力により、ほとんど存在が知られていなかった句碑があることが判明いたしました。三才地区に、です。
 刻まれているのは、俳聖・松尾芭蕉の 「八九間 空で雨降る 柳かな」 です。『続猿蓑』 の冒頭を飾る発句で、最晩年・元禄7年(1694)春の作です。
 「春の雨が止んだのに、柳の下、八、九間は、雫となった雨がしたたっている」 という意味です。
 「八九」 には 「発句」 という語が隠されています。さらに、当時の慣習からして 「柳」 と言えば 「弔い」 なので、亡き人を悼んで涙するイメージが含意されていることも言うまでもないでしょう。
 有名な句なので、当然、句碑は多く、ざっと調べただけでも 20 以上見つかりました。長野県内では伊那市にもあります。今回の碑は、自然石に、元禄 11 年刊の古本に近い書体を用いているので、かなり風流な感じがします。ただ、「空で雨降る」 の 「降」 に続くはずの 「る」 がありません。深く彫り直すなどして見映えを整えた折にでも欠落してしまったのかもしれません。
 右下の 「翁」 ですが、俳句・俳諧の世界では 「翁」 と言えば芭蕉です。51 歳で亡くなられた方を 「翁」 と呼ぶのは現代の感覚からすると違和感がありますが、決り事です。

 裏

kuhi_02

 

 「明治拾四年辛巳暦 邨松い翁 建之」
  明治十四年(1881)かのと・みの年 村松い翁がこれを建てた、と書かれています。伊那市の碑は文政六年(1823)に建てられたとされていますので、残念ながら、58 年も先行されています。

 私有地ですので、見学される場合は近隣住民の皆様のご迷惑にならないようにお願いいたします。

kuhi_map